テレビセットの裏側!プロが教える大道具制作の全工程

室谷: 栗原さん、テレビ番組のセットってどうやって作られているか考えたことなかったんですけど、あれって誰が作ってるんですか?

栗原: いい質問ですね!テレビのスタジオセットを作っているのは、業界で「大道具」と呼ばれる美術スタッフです。木工職人さんが中心となって、デザイナーが描いた絵を実際の立体物にしていく仕事ですね。

室谷: えっ、家具屋さんとは違うんですか?

栗原: 全然違います(笑)。家具職人は「使うための家具」を作りますけど、大道具は「映像で見たときに本物らしく見えるもの」を作るんです。例えばセットの中の「家」も、本当の家を建てるわけじゃなくて、家に見えるものを作る。考え方がまったく別物なんですよ。

室谷: なるほど〜!見た目重視ってことですね。

栗原: そうそう。しかも、撮影が終わったらバラして次のセットに使い回したり、トラックで運んだりするので、「軽くて丈夫」が絶対条件。家具を作る感覚で重い無垢材を使ったら、運搬する人が腰を痛めちゃう(笑)

室谷: たしかにそれは大事ですね…!

テレビセット制作の全工程はこうなってる

テレビセット制作プロセスのフロー図

室谷: 制作の流れって、具体的にはどんな感じなんですか?

栗原: ざっくり言うと、こんな順番で進みます。

ステップ 工程 担当
1 受注・打合せ 営業
2 製図(かきぬき) 営業・設計
3 木工パネル製作 大工(木工)
4 塗装・背景描き 塗装
5 造形・ルーター加工 造形・NC
6 紙・布貼り 経師
7 運搬 運搬
8 スタジオで建て込み 操作
9 本番収録 操作・営業
10 バラシ(解体) 操作

室谷: えっ、こんなに工程があるんですか!?

栗原: あるんです(笑)。しかも全部の工程が連動してるので、どこか一つ遅れたら全部遅れる。納期との戦いですね。

室谷: 一番最初の「かきぬき」って何ですか?聞き慣れない言葉…

栗原: 「かきぬき」は製作図のことで、舞台美術業界の昔からの呼び名です。デザイナーが描いたイメージ図に、材料・寸法・色・塗装の指定なんかを全部書き込んだ詳細図のことなんですよ。

室谷: へえ〜、業界用語があるんですね。

栗原: 面白いのが、寸法表記。普通の建築だとミリ単位ですけど、舞台美術では伝統的に「尺」「寸」で表記することが多いんです。3尺×6尺(約910mm×1820mm)が基本パネルのサイズ。

室谷: えっ、ほんとに?まだ尺寸使ってるって面白い…!

栗原: 歴史のある業界なんですよ。もちろん今はミリ表記の現場も増えてきていますが、ベテランの職人さんとやり取りするときは尺寸が出てきますね。

製作図(かきぬき)の特徴
– デザイナーの絵を、職人が読める「製作の言語」に翻訳した図面 – 材料・寸法・色・仕上げ方の指定が全部入っている – 舞台美術業界では伝統的に「尺・寸」表記が使われることがある – かきぬきを正確に読み取る力が、大道具職人の基礎スキル

木工パネルが基礎の基礎

室谷: で、いよいよ木工の工程なんですよね?

栗原: そうです!テレビセットの「壁」とか「家のセット」って、ほとんどが木工パネルでできているんですよ。これが大道具の土台中の土台。

室谷: パネルって、ベニヤ板を貼っただけのものですか?

栗原: 単純に見えてけっこう奥が深いんです(笑)。例えば3尺×6尺の基本パネルを作るときは、こんな感じです。

  1. ベニヤ板(並ベニヤが基本)を所定の寸法にカット
  2. 裏側に「小割(こわり)」と呼ばれる細い木材を枠状に配置
  3. ボンドを塗ってエアータッカーで止める
  4. 中骨(なかぼね)を1.5尺〜2尺ピッチで入れて補強
  5. 四隅にバタフライ(三角の補強材)を当てる
  6. 表面の継ぎ目や打ち跡をパテで埋める
  7. サンドペーパーで平らに仕上げる
  8. シーラー塗布、本塗装(2度塗りが基本)

室谷: マジですか、めっちゃ工程多い…!

栗原: 一見ただの板に見えるけど、裏側はかなり緻密な構造になってるんですよ。中骨のピッチを変えるだけで、強度も重さも変わる。「軽さ」と「強さ」のバランスを、職人が現場ごとに判断して決めてるんです。

室谷: それって経験値がモノを言う世界ですね…!

栗原: そうなんです。たとえば人が乗るシーンがあるセットなら中骨を1尺ピッチで密に入れる、ただ背景として立たせるだけなら2尺ピッチでOK。用途を読み取って構造を変えるのがプロの腕。

室谷: なるほど〜。

なんで「バタフライ」って呼ぶの?

室谷: さっき出てきた「バタフライ」って何ですか?お洒落な名前ですね(笑)

栗原: 四隅に当てる三角の補強材のことです。蝶々の羽みたいな形だから「バタフライ」。木工の世界には独特の道具名や部材名がたくさんあって、新人さんは最初こういう用語を覚えるところから始まるんですよ。

室谷: ええ、めっちゃ可愛い名前(笑)。他にはどんな用語があるんですか?

栗原: たくさんありますね。例えば…

用語 意味
かきぬき 製作図のこと
小割(こわり) パネルの枠に使う細い木材
垂木(たるき) ベニヤの継ぎ目に使う角材
中骨(なかぼね) パネル内部の補強材
バタフライ 四隅の三角補強材
ナグリ 大型のトンカチ。建て込み時に使う
建て込み スタジオで組み上げる作業
バラシ 撤収・解体作業

室谷: ナグリって何ですか?トンカチ?

栗原: そう、大きな木槌のことです。スタジオでセットを組むときに、職人さんが腰にぶら下げて持ち歩いてる、あの工具ですね。「腰にナグリをぶら下げた人=大道具さん」って世間でイメージされる典型ですよ(笑)

室谷: あ〜、たしかにテレビの裏側映像で見たことあります!

道具と素材、どれくらい使うの?

木工現場の道具と素材一覧

室谷: 現場ってどんな道具が並んでるんですか?

栗原: 木工パートでよく使うのは、こんなところですね。

道具・素材 用途
エアータッカー ベニヤと小割を留める
丸ノコ 木材の直線カット
NCルーター 円・曲線・複雑な模様のカット
並ベニヤ パネルの表面材
小割材 パネルの枠
水性塗料(つや消し白) 基本塗装
シーラー 下地止め
パテ 隙間埋め
ボンド 接着用

室谷: NCルーターってなんですか?聞き慣れない…

栗原: NCルーターは、コンピューター制御で木材を切り出す機械です。データを読み込ませると、手作業じゃ難しい円形や複雑な模様も正確に切り出してくれるんですよ。

室谷: ええ、ハイテクじゃないですか!

栗原: 最近の大道具現場はかなり進化してます(笑)。昔は全部手作業でしたけど、今はNCルーターで土台を切って、人の手で仕上げる、っていう分担が一般的。機械と職人の腕の合わせ技ですね。

室谷: ハイブリッドな感じですね。

栗原: そうそう。インテリアロードの木工部隊でも、NCルーターをフル活用してます。手作業だけだと到底間に合わない量の仕事を、機械と人の役割分担でこなしてるんですよ。

知っておきたい現場のリアル
– テレビセットの仕事は納期がタイト。1週間以内で組まなきゃいけないケースも多い – オーダーメイドの一点ものばかりなので、毎回違う仕事になる – 守秘義務があるので、関わった番組名を外部で話すのはNG(業界の暗黙ルール) – 重い材料を扱うので、安全管理は徹底必須

塗装って、ただ塗るだけじゃない

室谷: 木工パネルができたら、次は塗装ですよね?

栗原: そう。塗装も奥が深いんですよ〜。テレビセットの塗装って、照明を当てたときに映える色味を計算して塗るんです。

室谷: えっ、ほんとに?

栗原: 普通の家の壁を塗るのと違って、テレビセットはカメラに映ることが大前提。カメラのレンズと照明を通すと、肉眼で見たときと色味が変わって見えるんですよ。「現場で良い色」と「カメラで良い色」は別物

室谷: 知らなかった…!

栗原: なので、ベテランの塗装職人さんは「これ照明当てたらちょっと暗く出るから、もう一段明るくしとくか」みたいな判断を、感覚でやってます。これは数値化しづらい職人技ですね。

室谷: 完全にプロの世界ですね。

栗原: あと、面白いのが「かきわり」っていう技法。

室谷: なんですかそれ?

栗原: 道具帳(小さなイメージ図)を40倍に拡大して、セットに描く絵のことです。例えば窓の外の風景とか、遠景の街並みを描き起こす。遠近法や陰影を駆使して、平面の板を立体的に見せる技術ですね。

室谷: えっ、40倍ってすごい…!

栗原: 絵心も必要な仕事です(笑)。塗装パートの職人さんは、いわば舞台美術の画家でもあるんです。

「バラシ」が地味に大変

室谷: 本番が終わったら、セットってどうなるんですか?

栗原: 「バラシ」と呼ばれる解体作業に入ります。これが地味に大変なんですよ〜。

室谷: なんでですか?組み立てた逆をやるだけじゃないんですか?

栗原: それが、現場によっては本番が深夜まであって、終わったらすぐバラシっていうこともあるんです。スタジオの数は限られているので、次の収録のために夜中にバラしてトラックに積んで、工場に戻すか倉庫に運ぶ。

室谷: えっ、深夜作業…!

栗原: そう。だからチームワークと体力勝負(笑)。しかも、再利用するセットは丁寧に外して保管、廃棄するセットは効率重視で解体、っていう判断も現場でやります。

室谷: 大変だけど、なんかカッコいいですね…!

栗原: 番組が無事に放送されたあとに、誰にも見られないところで職人さんがバラシてる。これも大道具のリアルな仕事のひとつです。

こんな人に向いてる仕事

室谷: 大道具の仕事って、どんな人に向いてるんですか?

栗原: いくつかタイプがあります。

大道具・木工部隊に向いてる人
– モノづくりが好きで、手を動かす仕事が楽しいと感じる人 – テレビ・映画・舞台などエンタメ業界に興味がある人 – チームで動くのが好きな人(一人で完結する仕事じゃない) – 体力がある、または体力をつけたい人 – 「自分が作ったものが世に出る」喜びを感じたい人

室谷: 未経験でも大丈夫ですか?

栗原: もちろんOK!むしろ業界全体が未経験から入って育つ世界です。専門学校で勉強してから入る人もいますが、高卒・別業界からの転職組もたくさんいます。

室谷: そうなんですね!

栗原: 必要なのは「やってみたい」気持ちと、現場で覚える姿勢ですね。最初の半年〜1年でかきぬきの読み方、基本パネルの作り方、現場のマナーを覚えていく。3年もやれば一通りの仕事はできるようになるのがこの業界です。

室谷: 意外と早く一人前になれるんですね。

栗原: 一人前のレベル感は色々ありますけど、基礎を一通り覚えるのはそんなに長くないですよ。そこから先は、自分がどこまで腕を磨くか次第。

インテリアロード木工部隊の現場って?

室谷: 栗原さんがいるインテリアロードでは、どんな仕事をしてるんですか?

栗原: インテリアロードの木工部隊は、テレビセットだけじゃなくて舞台、コンサート会場、展示会、イベント設営、店舗什器まで幅広くやってます。年間500件以上の案件をこなしてる感じですね。

室谷: 年間500件!?それはすごい…!

栗原: 工場が埼玉県八潮市に2拠点あって、そこで設計から製作、塗装、納品までを一貫してやってます。NCルーターも完備してますし、職人さんの手仕事との合わせ技で、ハイクオリティな仕事を回してる感じです。

室谷: 求人ってどんな人を募集してるんですか?

栗原: 未経験から即戦力まで幅広く募集してます。20代の若手も歓迎ですし、別業界からの転職で経験を活かせる人もウェルカム。木工の経験がある人なら即戦力で活躍できますし、未経験でも基礎から教える環境があります。

室谷: 「やってみたい!」って気持ちがあれば飛び込めるってことですね。

栗原: そうそう。あとはやっぱり、自分が作ったものがテレビや舞台で使われるって、めちゃくちゃ気持ちいい仕事なんですよ(笑)。家族や友達に「あ、これウチで作ったやつだよ」って言える。これがやりがいの源泉。

室谷: それは確かに最高ですね…!

栗原: モノづくりが好きで、エンタメに関わりたい人には、本当におすすめできる仕事です。

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栗原: テレビセットの裏側、ちょっとは伝わったかな?

室谷: バッチリです!知れば知るほど面白い世界ですね…!